インタビュー#3:茨城キリスト教大学 大学院生活科学研究科 科長(教授) 川上美智子

お茶

「食機能性研究のパイオニア!〜お茶の研究から食の機能性をみつめて〜」

川上美智子 茨城キリスト教大学 大学院生活科学研究科 科長(教授)

2011年、2012年と2年間、行方市並びに行方市商工会の依頼により「行方市第六次産業嗜好のための食品開発」研究を実施され、行方市が目指す新たな農畜水産業に向けた協力者のお一人です。川上先生にこれまでのご研究と今後についてお話頂きました。

川上美智子先生

【ご経歴】
  • 1968年 お茶の水女子大学家政学部食物学科 卒業
  • 1970年 お茶の水女子大学大学院家政学研究科食物学専攻 修了
  • 1988年 お茶の水女子大学大学院人間文化研究科 学術博士号取得
  • 1989年  米国カリフォルニア大学デイビス校環境毒性学研究科  客員研究員
  • 1972年 茨城キリスト教短期大学 講師
  • 1982年 茨城キリスト教短期大学 教授
  • 2000年 茨城キリスト教大学生活科学部食物健康科学科 教授
    現在に至る
【受賞】
  • 2000年度 茶道文化学術奨励賞
  • 2003年度 O-CHAパイオニア賞学術研究大賞

1. 川上先生は食のご研究をされておられますが、食のご研究とはどの様なご研究なのでしょうか。

ヒトは、カラダの中で必要な栄養成分を作り出すことは出来ません。生きて行くためには「飲みもの」を飲み、「食べ物」食べることが不可欠で、これで命を維持しています。私達ヒトが健康に生きて行くためには、何よりも先に食事がしっかりしていることが大事です。

食べ物の役割は、3つに分けて考えることが出来ます。一つ目は、「栄養」です。カラダを作り、動かし、代謝してエネルギーを作り出す源が、食物から摂取される「栄養素」です。エネルギーを作り出すのは、炭水化物、タンパク質、脂質の3つで、それらを三大栄養素と呼んでいます。具体的にこれら三大栄養素をどの様なバランスで摂取すれば良いかなど、昔から多くの研究者が研究を続けています。

また、ビタミンやミネラルを微量栄養素と呼び、ビタミンが13種類、ミネラルが13種類あり、三大栄養素と微量栄養素のバランスを、厚生労働省では「日本人の食事摂取基準」としてまとめています。私達はこれら「栄養」の役割を「食の一次機能」と呼んでいます。

次に、私達が研究している分野の「食の二次機能」を説明します。「食の二次機能」と言うのは「おいしさ」。つまり嗜好性です。「おいしさ」と言うのは「味」と「香り」、「色」で決まります。

味は、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つの味を「五原味」や「基本味」と呼びます。「五原味」以外に、辛味や渋味、エグ味、最近では「コク味」という味もあると考えられています。味成分をはじめ嗜好成分の多くが、抗酸化機能など「食の三次機能」にも関わっていることがわかってきました。

では、「味」だけで「おいしさ」が判るか?と言うと、「おいしさ」を決める要素は「味」だけではないのです。例えば、今お出ししているのは紅茶なんですが、鼻をつまんで紅茶を飲んでみて下さい。「味」だけでは紅茶と判るでしょうか。紅茶らしさを伝えているのは、実は「香り」なんです。「香り」があって始めて私達は「おいしさ」を感じることが出来るのです。

「味」と「香り」を説明しました。最後は、「色」の話です。食べ物の色は私達がおいしく食べるために重要な働きをしています。綺麗な色の食品は食欲を誘い、食べたい欲求を起こさせます。黄色い色では「カロテン」がありますし、赤い色なら赤ワインに含まれる「レスベラトロール」があります。これらは「食の三次機能」にも関わって来ますが、抗酸化機能を有する物質です。ただし、天然の色ではなく、安価に綺麗に見せるための添加物の色は、大量摂取は好ましくありません。素材の能力をいかに活かして綺麗に調理するかが重要です。今、少し話しましたが、「食の三次機能」は生体調節や生理機能に関わる機能性です。食べ物を食べることでカラダを整えることが出来ます。例えば、活性酸素からカラダを守るための抗酸化性物質や、免疫能力を高めるような機能性物質が、食物の中から確認されています。「食の二次機能」と「食の三次機能」には重複している部分がありますが、「美味しさ」は、「色」、「味」、「香り」の3つが揃って嗜好を表し、食べて見ようかなという欲求を起こさせることになります。日本人はこれら「食機能」対して非常に敏感で、食べることを楽しみにしているところがあります。

2. 最近、高齢者の介護で、嚥下食が話題になっていますが、軟らかい食事と言うのは食事を楽しめない様に思いますが。

口から食べる(栄養を摂る)と言うのはすごく大事なことです。口の中には様々なレセプターがあって、口に食べ物が入ることで脳を刺激することが判って来ました。高齢になっても出来る限り歯をしっかり残して、ずっと噛んで食べられることは重要なのですが、加齢により噛む機能が失われた場合でも、口から食べ物をカラダに入れることは重要です。軟らかい嚥下食でも充分にその効果が得られるものだと考えられます。

しかし、子どものころから軟らかいものばかりを、噛まずに飲み込んでしまうことは、決してよいことではありません。硬いものや大きめの食材を噛み砕いて、良く噛んで食べることが脳への刺激となり、噛んでいる間に多くの消化酵素がカラダの中から出て来ますので、カラダにとっては軟らかい食べ物ばかりでなく、色々な硬さのものを食べることが健康維持に役立ちます。

3. 川上先生のご専門である「お茶」の研究について教えて頂けますか。

最新刊のお茶の本で、「新版茶の機能」という本が出版されました。私は、この本の「香味と嗜好性」と言う部分を書かせて頂きました。お茶の機能性と言うのは、皆さんもご存知の通りカテキンの機能性が多くの部分を占めています。カテキンと一口に言っても様々なカテキンがあるのです。今、研究で注目されているのは、EGCGと言うカテキンです。EGCGはカテキンの中でも強い抗酸化性を示し、癌にも効果があるといわれ研究が進んでいます。

加えて、メチル化カテキンは、アレルギー予防効果が得られるとのことで、研究が進められています。カテキン類はあらゆる疾病に効果があると考えられています。この様なことから、多方面でカテキン研究が進められています。

抗酸化力以外に、カテキンにはタンパク質を凝固させる機能があって、この能力を使うと細菌類の感染を未然に防御することが出来ます。例えば、インフルエンザですが、口腔内に入ったインフルエンザウイルスのタンパク質とカテキンが結びつくことでインフルエンザウイルスをカテキンで固めてしまうことができるのです。この固める効果を収斂(しゅうれん)と呼んでいます。

インフルエンザウイルスの機能を止め、体外に排出させたり、体内に入ったとしても気管などの呼吸器ではなく、お茶と一緒に胃に流し込むことで退治することが出来ると考えられます。私達は収斂作用を感じることが出来ます。口腔内粘膜のタンパク質とカテキンが収斂を起こすと、渋みとなって感じることが出来ます。お茶を飲んだ時に渋いと感じるのは、口腔内のタンパク質とカテキンがくっついて渋みが生まれた結果なのです。

最近、お茶から、「ストリクチニン」という物質が見つかっていて、「メチル化カテキン」と同じようなアレルギー予防効果が確認されています。また、玉露に多い「テアニン」という旨味成分は、神経系に作用して脳細胞を保護するといわれています。そのほか「サポニン」は、咳や痰を鎮める効果があることから気管系の薬などに使われています。また、微量成分のマグネシウム、マンガン、セレンなどの無機質も含まれていることが判っています。

日本にお茶が入って来たのは、奈良時代よりもちょっと前ぐらいで、薬として中国から渡来しました。日本国内に元々お茶の木があったかどうかは判らないのですが、お茶を飲む習慣は遣隋使・遣唐使が伝えた文化で、遣隋使・遣唐使はお坊さんだったので、お寺のお坊さんや貴族からお茶を飲むことが始まったようです。

私の専門である、「お茶の香りの成分」ですが、お茶には多用な製法があります。また、お茶の淹れ方の違いにより抽出される成分も、香り立つ成分も違ってきます。例えば、緑茶の場合、釜で炒るタイプのお茶や、茶の葉を蒸すタイプのお茶など、火入れの仕方が違いますし、玉露のように茶葉を摘む前に何日か茶の木に覆いを被せる被覆茶と言う高級なお茶もあります。また、四国や富山などでは漬物茶や堆積茶という発酵茶(後発酵)が作られています。漬物茶は、茶生葉を加熱した後に乳酸菌などにより発酵させて作った独特の発酵茶です。これら様々なお茶から味の決め手になる香りについての研究を続けて来ました。

4. お茶に大変興味が湧いて来たので、もう少しお茶についてお話頂けませんか。

例えば、カテキンの含有量だけを考えると、高級なお茶の方が一般的にはカテキンの含有量が多く含まれています。カテキンと一口に言っても様々なカテキンがあるのですが、特に機能性の高いEGCGカテキンの含有量が多くなる傾向にあります。お茶の機能をフルにカラダに取り込むのであれば、飲むよりも食べる方がよりたくさんの機能性物質を取り込めますので、「抹茶」にして食べてしまう方がより効果的です。

これまで私達が行って来たお茶の香りの研究では、時間のかかる抽出法を用いていました。現在はお茶を普通にいれて直接香り立つ香気を分析機器に取り込むことが出来ますので、これまでに手がけた分析をやり直しています。分析機器技術が進展して、新たな発見が見つけられると思い再チャレンジをしています。昔の研究では、茶の香気の中にある新たな物質の発見を目指していたのですが、現在は香気の機能性に着目し、研究をシフトしました。ヒトのカラダに有用な物質が数多く特定出来れば、日常的な食からの健康維持・増進を目指すことが出来るようになるわけです。

一般にお茶の香りは、300種類以上の揮発性成分から成っています。紅茶は、100%発酵茶なので、どの紅茶でも香りはだいたい同じような化合物から構成されます。しかし、中国本土や台湾で作られているウーロン茶は、発酵度が30%7,80%と幅があり、地域や発酵条件の違いで様々な面白い物質を見つけることが出来ます。ウーロン茶と呼ばれるお茶の総数はわかっていませんが、沢山あることは間違いありません。

最近では、ネパールのお茶の研究をしており、研究発表を行ったところです。同じヒマラヤの地域ということもあり、インドのダージリンティーに非常に似通ったお茶であることが判って来ました。ダージリンティーは、春摘み茶、夏摘み茶、秋摘み茶の3回の収穫があって、日本だと一番茶を大事にする習慣があるのですが、ダージリンティーは、一番茶である春摘み茶を「1stFLASH」夏摘み茶を「2ndFLASH」秋摘み茶を「AUTUMNAL」と呼んでいます。ダージリンティーでは、一番茶の春摘み茶「1stFLASH」よりも夏摘み茶「2ndFLASH」が珍重されています。その理由は、夏摘み茶「2ndFLASH」は、昆虫(雲霞)の食害にあった茶葉なのです。この茶葉の香気を分析すると、昆虫(雲霞)の天敵が好む香り成分が含まれていることが判明しました。

つまり、お茶の葉が昆虫(雲霞)の食害から逃れるために昆虫(雲霞)の天敵を呼び寄せていることが判りました。私達ヒトは昔から「2ndFLASH」のダージリン紅茶の方がより香り高く貴重なお茶として、一番茶の「1stFLASH」よりも好んで高価に扱ってきましたが、それが、この香りにあったのです。

ダージリンティーを購入される時には、是非ラベルをご確認してみて下さい。お茶選びが楽しくなりますよ。

この様に、お茶にはヒトの健康に有用な成分が含まれていて、特にウーロン茶にはまだまだ私達が理解していない面白い物質が見つかる可能性が高いと考えられます。また、ウーロン茶は漬物茶と違い、お茶の葉が自ら持つ力で発酵したものですので、お茶の機能を最高に引き出せるお茶なのかも知れません。食が注目され始めたのは最近のことです。私が食に興味をもったのも、農学=生産工学的な部分ではなく、ヒトと直接関わるものだったからです。ヒトの健康や命の維持に欠かせない食に大きな魅力を感じ、食の研究者としてこれまで研究を続けて来ました。今後も、食の機能性研究を通じ、様々な知見や研究開発を発表して行きたいと思っています。

5. インタビューを終えて。

今、不確実性の時代と言われ、様々な不安の中で私達は生活を送っています。福島第一原発事故に起因する放射性物質とそこから発せられる放射線、中国から飛来するPM2.5、東海・東南海大地震、局地的な大雨や大雪・台風などの異常気象、経済不安と挙げる間もなく多くの生活不安が、私達が暮らす生活環境の中にあります。飲むこと、食べることは生きるための基盤であり、これらが不安になると勉学や仕事に悪影響をあたえることになります。食が多様化することで、いままで以上に食を理解し、医療に頼ることなく食による健康が得られることが重要であり、生活の中で上手に食を利用することが大事だと川上先生のインタビューを通じて感じました。食の機能性は、まだまだ奥の深い研究素材だと思います。川上先生にはこれからも私達の暮らしを豊かにするご研究を進めて頂けることを望みます。

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